Rustとは?特徴や他言語との違いまで徹底解説!

Rustは、近年注目されているモダンなプログラミング言語の一つです。この記事では、Rustが注目されている理由や、他言語と違いまで徹底的に解説します。
Rustとは何か?
Rustは、非常に高いパフォーマンスやメモリ安全性など、近年人気が高まってきているモダンなプログラミング言語の一つです。
なぜRustに注目が集まっているのか?
Rustは、なぜ近年注目を集めているのでしょうか。いくつかの理由をご紹介します。
信頼性・安全性の高い実装の実現
近年は、サイバーセキュリティの脅威が増加しており、攻撃者はシステムの脆弱性をついて攻撃してきます。そのため、信頼性の高いシステムを構築することが必要不可欠です。Rustでは、メモリ安全性を言語レベルで保証するような仕組みがあり、コンパイルが通れば、メモリ安全性の多くが保障されるため、非常に信頼性の高いシステムを構築できます。
実際に、バッファオーバーフローやダングリングポインタ(解放されたメモリ領域を指すポインタ)へのアクセスなどメモリ安全性の問題は、重大な脆弱性の大半を占めるとも言われています。このように、セキュリティ要求への対応への高まりに伴い、Rustへの注目と期待が高まっています。
高速性と開発効率の両立
これまでは、高性能な処理を実現するにはC/C++を選び、開発効率を重視する際にはPythonなどのスクリプト言語を選ぶといった、性能と生産性のどちらを取るかという二者択一の判断を迫られることが多くありました。RustはC/C++に匹敵する高性能を持ちながら、Pythonなどのモダンな言語に見られる表現のしやすさや安全性も備えており、その両立を実現しています。
Rustは、C/C++と同等の性能を保ちつつ、メモリ安全性や並行性の安全性をコンパイル時に保証することを目指して設計されており、C/C++の代替としても大きな期待を集めています。
幅広い適用範囲
Rustは、C/C++に変わるシステムプログラミング言語として注目されがちですが、実は様々な分野で活用できる汎用性の高いプログラミング言語です。
用途 | 概要 |
---|---|
組み込み開発 | メモリ使用量の厳密な管理が求められる環境でも、安全性と効率性を両立した開発が可能です。 |
コマンドラインツール(CLI)開発 | ライブラリと組み合わせることで、保守性が高く使いやすいCLIアプリケーションを素早く構築できます。 |
Web開発 | 高速なWebフレームワークを利用することで、並行処理に強く、安全で高速なWebアプリケーション開発が可能です。 |
WebAssembly(WASM)対応 | Rustは、近年登場したWebAssemblyとの相性が非常によく、ブラウザ上で動作する高速な処理を記述できます。 |
エコシステムの充実
Rustは、言語としての素晴らしい設計思想だけではなく、開発環境やライブラリ(クレートと呼ばれます)関連のエコシステムが非常に充実していることも注目される理由の一つです。
例えば、Rustのプロジェクト管理では標準でCargoというビルドツール兼パッケージマネージャが標準で用意されており、ビルド・テスト・ドキュメント生成の実行、パッケージの依存関係管理などを一貫して行うことができます。
また、Rustのパッケージはcrates.ioという公式のリポジトリを通じて簡単に検索、導入ができるようになっており、高品質かつ実用的な各種ライブラリが数多く公開されています。このように、実際の開発に必要な機能をすぐに利用できる環境が整っているため、Rustは「学習コストは高いが、開発効率も高い」と評価されることが増えてきています。
大手企業での採用
Rustは、その安全性・性能・開発効率の高さから、近年ではGoogle、Microsoft、Amazonなどの大手企業でも採用が進められています。例えば、MicrosoftではWindowsやAzure(クラウド)などのプロジェクトでRustを積極的に評価・導入を進めています。このように世界のIT大手企業がRustを本番環境に導入し始めていることは、Rustの信頼性や将来性を強く示す動きと言えます。
最も称賛された言語ランキング
Stack Overflow Developer Survey 2024のMost Admired Language (=最も称賛された言語)として、82.2%というスコアで1位を獲得しています。これは、現在Rustを使用している開発者が今後も使いたいと強く思っていることを意味しており、Rustの安全性や充実したエコシステムによる開発が開発者に受け入れられていることがよく分かります。
また、Desired Language (=使用を望まれている言語)では、PythonやJavascriptといった言語には劣りますが、28.7%で6位といった上位となっています。

青:Desired, 赤:Admired
このようにRustは今後も使用の拡大が十分に期待できる言語です。
Rustの歴史
Rustは、WebブラウザのFirefoxなどで知られるMozillaのエンジニア Graydon Hoare 氏の個人プロジェクトとして2006年に始まり、2009年からMozillaが公式プロジェクトとして支援するようになりました。
2015年にRust 1.0が正式にリリースされ、以後は安定性と後方互換性を重視した開発が継続されています。2021年にはRust Foundationが設立され、これを機にMozillaから独立し、コミュニティによるオープンな体制での開発が進められるようになりました。
また、2018年からは「エディション」という形で言語仕様の大きな節目が導入されており、本記事執筆時点での最新版はRust 2024 (バージョン1.85.0以降)です。
Rustはこのように、Mozillaプロジェクトから始まり、オープンなエコシステムへ成長しました。今では世界中の開発者や企業が支える「高性能」と「安全性」を両立する近代的な言語として注目を集めています。
Rustの特徴と強み
ここでは、Rustが注目・評価されている特徴と強みについて概要を紹介していきます。
メモリ安全性(所有権、借用、ライフタイム)
Rustが高く評価されている特徴の一つに「メモリ安全性」を言語仕様のレベルで保証している点があげられます。C/C++などでは、メモリを十分意識した開発が求められますが、メモリの解放忘れ、解放したメモリへのアクセス(ダングリングポインタ)、バッファオーバーフローなどのシステムに大きく影響する深刻なバグが発生しやすいです。
Rustでは、これらの問題をコンパイル時に防ぐ仕組みが言語仕様として備わっています。代表的なものとして「所有権」「借用」「ライフタイム」といった仕組みについて簡単にご紹介します。
所有権(Ownership)
Rustでは、変数がデータの所有者であるという所有権の考え方を持っています。他の変数へ所有権が移動すると、元の変数は該当するメモリ上のデータにはアクセスできなくなります。これによりあるメモリ領域へアクセスできる変数が限定されるため、安全にデータを処理できます。
借用(Borrowing)
データの所有権を移動させずにデータを一時的に参照させることを借用といいます。借用には不変参照(読み取り専用)と可変参照(読み書き可)があります。
読み取り専用の不変参照はデータを変更できないため、同時に複数作ることができます。一方で、可変参照は同時に一つしか存在することができず、その間は他の参照や元の変数からのアクセスも禁止されます。これによりデータ競合や不整合のない安全なメモリ管理が実現できます。
ライフタイム(Lifetime)
ライフタイムは、借用に関連する概念であり、どれだけの間で参照ができるのか管理します。ライフタイムの考えにより、元の変数が解放されているのに参照がアクセスするような処理をコンパイル時点で見つけることができ、ダングリングポインタによる不正なメモリへのアクセスを排除できます。
これらの仕組みは少し理解が難しい内容ですが、理解できるとコンパイラが多くの部分を推論、チェックしてくれるため、自然に安全な実装ができるようなものとなっています。
型安全性
Rustは、型によって安全性と開発者の意図を明確に表現できるようになっています。これはHaskellなどの関数型言語の影響を受けた設計とも言われています。代表的な例として、「値が存在しない可能性」を明示的に扱う Option<T>
型や「成功または失敗」という処理結果を表す Result<T, E>
型などがあります。
Rustでは、「値がないかもしれない」「エラーが起こるかもしれない」といったケースに対して、型レベルで明示的に扱う必要があるため、開発者はそうした状況に正面から向き合うことになります。この強力な型システムにより、開発者の見落としによるバグを未然に防ぐことができます。
一方で、こうした明示的な設計はコードの記述量を増やす可能性がありますが、Rustには型推論やパターンマッチングといった仕組みにより負担を減らしながら安全性を高めるようになっています。
ゼロコスト抽象化
Rustには「ゼロコスト抽象化」という概念があります。これは、抽象的で柔軟なプログラムの書き方をしたとしても、コンパイル後には余計な処理が入らずに高速な処理性能が得られるという設計思想です。
例えば、特徴的なものとしてトレイト (Trait)があります。トレイトは、型に共通する振る舞いを定義するもので、他の言語でいうところのインターフェースに近いようなものです。
このような抽象的な実装においては、他の言語で実行時に動的に決定されて処理されることが多く、処理性能に影響します。一方で、Rustではコンパイル時に静的に決定します。具体的には、コードの記述されているそれぞれの型に対するコードを生成しています。これにより、高性能かつ安全な実装を実現しています。
非同期処理
Rustでは、モダンな言語らしくasync
/await
といった構文による非同期処理をサポートしています。
また、これまでに紹介したような所有権、強力な型システムといった仕組みにより、非同期であってもメモリ安全性を維持しやすく、スレッドやデータ競合に起因するバグを防ぎやすいという点で非常に優れています。
さらに、コンパイル時に処理の安全性が検証されるため、非同期処理にありがちな実行時エラーを未然に防ぎつつ、効率の良い並行処理が可能となっています。
他の言語との違い
Rustは、処理性能でC/C++に匹敵しながらも安全性が高く、現代的な開発体験を提供してくれる点で、他の多くの言語とは一線を画しています。以下は主要な他の言語との比較です。
Rustと他言語の比較表
項目 | Rust | C/C++ | Python | Haskell |
---|---|---|---|---|
処理性能 | 非常に高い (C++並) | 非常に高い | 低め (インタプリタ型) | 高め (最適化は難) |
開発速度 | 中程度 | 低め | 高い | 低め (抽象度高く難) |
型安全性 | 非常に高い (Result型など) | 低め | 低い (動的型) | 非常に高い (強力な型システム) |
GCの有無 | なし | なし | あり | あり |
学習コスト | やや高い (所有権など) | やや高い (ポインタなど) | 低い | 高い (純粋関数型への慣れが必要) |
エコシステム | 成長中 (Cargoが強力) | 成熟 | 成熟 | 専門分野に特化 |
抽象化と最適化 | ゼロコスト抽象化で高速 | 高度だが安全性に欠ける | 抽象化しやすいが遅くなりやすい | 非常に抽象的・高精度だが難易度高 |
非同期処理 | 強力 ( async /await ) | 限定的で難易度高 | async /await 構文を利用可だが性能には限界あり | 強力だが難解 |
向いている領域 | システム開発/Web/CLI/組込システムなど広範 | OS/ゲーム/組込システムなど | Web/データ分析/自動化など | 数理処理/研究開発など |
比較ポイントの要約
C/C++との違い
Rustは、C/C++と同等の性能を持っています。C/C++では、メモリの手動管理によるバグのリスクが大きいですが、Rustでは、コンパイル時にメモリ安全性を言語レベルで保証できるのが大きな違いです。
Pythonとの違い
Pythonは、非常に書きやすく初心者でも学びやすい言語ですが、実行速度や型安全性に難があります。一方でRustは、所有権や型に関する理解が必要なため学習コストは高いですが、高速・安全なコードが書けるという違いがあります。
Haskellとの違い
Rustは、Haskellのような関数型の良い部分(Option型、Result型、パターンマッチングなど)を取り入れつつ、手続き型スタイルにも自然に対応できます。純粋関数型のHaskellほど抽象度はない分、現実的で実用的なコードを速く書きやすいという違いがあります。
Rustの将来性と課題
Rustは、これまで見てきたように、将来性・安全性・抽象化といった観点で非常にバランスの優れた魅力的な言語です。Rustの将来性と課題についてまとめてみます。
Rustの将来性
大手企業での採用拡大
GoogleやMicrosoft、Amazonなどの大手企業での採用も進んでおり、今後もRustに対応した開発基盤が増えていくと予想されます。
先端的な技術領域での活用
Linuxカーネルへの導入やWebAssemblyとの連携など、先端的な技術領域で活用が広がってきています。
言語仕様・ツールの成熟
コンパイラである rustc やパッケージ管理の Cargo は既に非常に高品質であり、今後も安定的な機能拡張が期待できます。
Rustの課題
学習コストの高さ
所有権やライフタイム、型システムなど、Rust独自の概念は初学者には難しく、習得までに時間がかかる傾向があります。一方で、C/C++、Java、Python、Haskell等の複数の言語を触ったことがある人にとっては、Rustの設計思想や言語仕様の良さが感じられて学びやすいように思います。
人材や情報の不足
利用者が増加傾向ではあるものの、やはりPythonやJava、C#などの主流なエンジニアに比べてRustエンジニアは少数派です。情報についても多くは英語であり、日本語のドキュメントはまだまだ不十分な面もあります。一方で、Rustを学ぶことで貴重な技術を持っている技術者として人材価値を生み出すことができる言語であるともいえます。
まとめ
Rustは、C/C++に匹敵する高いパフォーマンスとPython等のモダンな言語の開発効率を兼ね備えつつ、安全性の高いプログラミングができる現代的なプログラミング言語です。所有権や型安全性といったユニークな仕組みによってバグの少ない堅牢なシステム開発が可能です。
また、エコシステムの充実、大手企業での採用、WebAssemblyや非同期処理といった先進技術への対応により、Rustは今後ますます活用の幅が広がっていくと考えられます。
初学者にとっては学習コストがやや高めではありますが、その分、習得すれば大きな武器となる言語です。本サイトでは、Rustを学びたい方に向けて、分かりやすく実践的な記事を提供していきます。
Rustの魅力をぜひ一緒に体感し、学習に役立てていただければと思います。